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精神分析を自然科学の一端たらしめようという方針に沿って、フロイトの関心は心的外傷から無意識そのものへと移り、精神分析は無意識に関する科学として方向付けられた。そして、自我・イド・超自我からなる構造論と神経症論が確立した。
精神分析が創始されたころの精神医学においては、「精神病の原因は脳の何らかの器質的異常によるものであるが、その異常はいまだ解明されていない」という精神病内因説が優勢であった。また、脳科学もその異常を解明できそうなところまで発達していないので、フロイトと同時代の精神医学者たちは精神障害の原因究明には興味を示さず、むしろ症状を詳しく分類することに力をそそいでいた。
このような精神医学は、精神障害の根本的メカニズムを解明しようとする精神分析とは交流を持たず、しばしフロイトならびに精神分析を排斥し迫害する立場に回った。そのため精神分析は、精神医学界から離れたところで独自の発展を遂げることになる。精神分析が精神医学と深く結びついていくのは、フロイトの死後かなり経ってから、それも第二次世界大戦後のアメリカにおいてである。
とはいえ、総じて見れば精神分析は、20世紀初頭から半ばにかけて、心理学、精神医学はもとより、人文・社会諸科学や文化・芸術に多大な影響を及ぼした。
それまでの精神医学の治療法は、ある方法を用いたら病気が良くなった、といった経験則に頼ったものであった。そのため、病理学・病因論・治療理論といったものがなく、根治的な治療もできず、医学の他の領域に比べるといささか科学性が欠けているように見られた。そこで第二次大戦後の精神医学者たちは、すでにそれなりの病理学や病因論を整備していた精神分析学に期待をかけ、かねて排斥していたものに接近してきたのである。
20世紀後半になると、科学哲学、新行動主義心理学、生物学的精神医学、脳科学などから、精神分析の科学性、客観性、治療法としての有効性に疑問が投げかけられるようになる。抗精神病薬としてのクロルプロマジン「再発見」以来、精神疾患への薬物療法が発達し、精神分析療法で改善が見られない患者が治療できるようになると、精神医学領域における影響力は徐々に衰えていく。
精神分析の影響が大きかったアメリカにおいても、1980年のDSM-III(精神疾患の診断と統計の手引き)以降、神経症の概念が解体される方向に向かい、患者の希望した薬物治療を拒否して精神分析に専念した治療者が、患者との裁判で敗訴した(参照:過誤記憶裁判)こともあって、精神分析医の数は減少した。
近年、精神医学が薬物療法や、生物学的理論に偏りすぎたことへの反動として、また、摂食障害や人格障害などの薬物療法のみでは治療が困難な疾患については、精神分析の影響が限定的な認知行動療法が適用されつつある。そのため、日本国内においては、精神科の臨床でフロイト当時のままの精神分析療法を使う医師はほとんどいない。ただし、精神科医や臨床心理士などが患者理解のために精神分析の概念を援用することはあるし、口語版精神分析とも呼ばれる交流分析が心療内科や看護、介護の領域で活用されているという現実もある。また一般の人々が抑圧やコンプレックスといった精神分析由来の概念を使用(あるいは誤用)して、自分や他人の行動や心の動きを説明することも、日常生活のなかでよく見聞きする。
精神分析学は、人間には無意識の過程が存在し、人の行動は無意識によって左右されるという基本的な仮説に基づいている。フロイトは、ヒステリー(現在の解離性障害や身体表現性障害)の治療に当たる中で、人は意識することが苦痛であるような欲望を無意識に抑圧することがあり、それが形を変え神経症の症状などの形で表出されると考えた。そのため、無意識領域に抑圧された葛藤などの内容を自覚し、表面化させて、本人が意識することによって、症状が解消しうるという治療仮説を立てた。
フロイトは治療において、患者と治療者の間でいくつかの特徴的な現象が観察されるとしている。もちろん、患者・治療者ともに個性を持った人間であるから、これら諸現象がじっさいに常に観察されるわけではない。そこが「科学的再現性がないため精神分析を科学ではない」と主張している立場の論拠の一つともされている。
フロイトは、面接過程において、
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が過去に自分にとって重要だった人物(多くは両親)に対して持った感情を、目前の治療者に対して向けるようになるという現象を見いだした。これを転移(Transference)または感情転移という。
転移は、患者が持っている
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と深い結びつきがあることが観察されたことから、その転移の出所を解釈することで、治療的に活用できるとされた。転移の解釈は、精神分析治療の根幹とされている。
フロイトは、治療者の側に未解決な心理的問題があった場合、治療場面において、治療者が患者に対して転移を起こしてしまう場合があることを見いだした。これを逆転移(Counter Transference)という。
フロイトは逆転移は治療の障害になるため排除するべきものであり、治療者は患者の無意識が投映されやすいように、白紙のスクリーンにならなければならないと考えた。しかし、そうした治療者の中立性に関しては、弟子の中にも異議を唱えたものが多かった。
現代の精神分析では、逆転移の定義はさらに広げられ、面接中に治療者が抱く感情の全てを含むものになっている。そして、逆転移の中には患者側の病理によって治療者の中に引き起こされる逆転移もあり、そうした逆転移は治療的に活用できるとする考えが主流を占めるようになっている。
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のもとを訪れたにも関わらず、患者が治療過程が進むことを無意識的に拒んでしまうことを抵抗(Resistance)もしくは治療抵抗という。
これは、無意識に目を向けることには苦痛が伴うために起こると考えられている。この抵抗をいかに乗り越えるかが、治療過程の重要な局面となる。
高度に発達した精神が、以前に経過してきた地点に回帰する現象を退行(Regression)という。
退行の原因にはいろいろあるが、固着(Fixation)と大きな関係があるとされている。固着はリビドーの相当の量がある発達段階に残されて来ている事を意味するので、固着が強い人ほど内的や外的圧力に容易に屈し、その時点に退行しやすくなり、それだけ自我が脆弱だと言える。健康な人間でも睡眠時、食事、排便時、入浴時などリラックスできる時には軽い退行が起きる。
健康な退行と病的な退行は、その
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から正常な精神状態に立ち返る事が出来るかどうかで決まる。また、面接過程において自然と精神は未熟な精神の発達段階に退行する事がわかっており、これを治療的退行と呼び、精神分析の治療に欠かせない要素となっている。治療的退行時には患者が平生感じることのない感情や衝動に駆られる事が多い。
フロイトは、以下のような治療の技法を用いた。
患者が寝椅子などに横たわり、リラックスした状態で、何気なく心に浮かんできたあらゆることを言語化して語るように要求されるという方法の事。たとえば、窓の外の雲から空を連想し、空から水色が浮かび、といった連想を、患者が治療者に語るもの。
このような方法により、過去に抑圧された無意識の内容が表出され、現在の症状が解消するというのが、フロイトの考え方である。フロイトは当初、無意識を意識化する方法として、催眠を取り入れていたが、催眠の効果には個人差が大きく、またいったん症状が消失しても、後に再びもとの状態に戻ってしまうことを経験したので、フロイトは自由連想法を考案した。現在の精神分析では、対面による対話においても自由連想法と類似の効果があると考えられるようになったため、寝椅子を用いた自由連想法が使われることは少なくなっている。